厨食CLUB / 師父亮ESSAY / 第11回 薬膳

師父亮ESSAY

薬膳

薬膳とは

ふと、福建での研修時代の出来事を思い出したんです。その時は大阪の店舗の女性責任者が同行していました。翌日日本に帰るので最後の晩餐じゃないですけど宴会をして、彼女が結構酔っ払って急性アルコール中毒のようになったんですね。それでお前ついていけって言われたので一緒に病院へ行きました。病院では普通に注射打ったり処置はしてもらったんですが、彼女がのどが渇いたときにくれたガラスの水差しの中には、小さく切った牛肉とナツメの入ったスープだったんです。私は飲んでいないので味は分からなかったんですが、それを水代わりに飲ませていましたね。

「ああ、これが薬膳なんだ」そのとき初めて感じました。中国には、医食同源と言う言葉があるように、「薬」食同源ということなんですけど、基本的に人間の体を維持したり動かしたりするには口から物を入れないといけない。その食べ物から病気になった……なったというよりも、ならにようにするための予防的なものが薬膳だと思います。それとは別に現代では科学的な薬も使ってます。その薬はすごく体にいいときもあるし逆に害になる人もいると思うんです。そういう意味では現代で「薬膳」を使うのにたいへん難しいと感じます。

薬膳との出会い

そのころ私もお店をまかされていましたから、薬膳の本を見ながら作ったこともありました。しかし以前私は料理をするときにあんまり生薬は使わないようにしていました。コックになりかけの頃、昭和37年かな、父に体に良いときいた中国のお酒を送ったんです、いわゆる薬酒です。私が父親にプレゼントした初めてのことでしたから、大変喜んでくれたようです。しかし血圧が上っていって。あとで兄に、お前が送ってくれたのがうれしくて、毎日飲んでたからだって言われました。お医者さんに聞いたら、あのお酒の中に使ってる人参がいけなかったと。朝鮮人参は血圧を安定させたり下げる作用もあるが、人によっては上げることもあるようです。それ以来、薬膳の効果は「人によって違う」と、コックになり始めの頃自分で意識をしたのが最初ですね。

薬膳とのつきあい方




四川は薬膳、漢方薬の食材が集まるところで、専門の漢方薬市場があります。猿などの動物、植物の乾燥したもの、とうもろこしのひげ、セミの抜け殻、蛇、キノコ類。だから分らないものたくさんあります。売ってる人はみんな分かるんでしょう、何に良いですよって調合してくれますから。
 成都にある同仁堂薬局の中にはレストランがあります。薬膳専門のレストラン、食堂ですよね。薬局で私がこんなふうにお腹が痛くて、と説明するといろんな生薬を調合して、これを家に帰って食べなさいってくれますよね。さらにこういう食事をするといいよ、というメニューが中のレストランにあるんです。テーブルの上には薬効を書いた症状別のメニューがあってみんなそこで頼んでいました。

実際、中国でも薬膳料理の店としてやってるところは少ないですが、薬局はたくさんあります。例えばキクラゲは中国では薬局で売ってます。整腸作用があるようですね。食べてて何が薬なのかって・・・ある人はほうれん草のおひたしが薬になるかもしれないし、境目はないですよね。魚でもサンマのビタミンeは牛肉よりコレステロールを減らすとか、病院でコレステロールを減らす薬は処方してくれますが、だったら魚が好きならサンマ食べたらいいじゃないか、そういうことだと思います。病気を治療することはできないけれど、自分に合った食材を普段の食生活に取り入れるということなんでしょう。
 いわしやあじにはこんな効果が期待できる、はもは皮膚の老化防止ゼラチンやコラーゲンが強く、鰻は疲労回復・・・ですから、単に生薬を使った料理が「薬膳」ということではないのです。

身近にあるものを使えばいいんです。ただ自分に合ったもので。何でもかんでも薬膳だから薬だからって入れても、決して良いことはありません。
 なぜかというと、薬膳を売りにした知り合いのコックさんが若くして亡くなってしまいました。私と同い年でした。薬にもなるけど害にもなる、その人は害のほうがでたんでしょうね。彼は薬膳薬膳って言ってたから癌になったんだ、薬膳なんか言わなかったらもっと長生きしたはずなのにって思いましたね。コックですから薬膳は人のためには作るけど自分のためには作りませんし、味見や研究でたくさん作るじゃないですか。それらが合わなかったんでしょうね。

 

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